「自然に治る例多く、まず様子みて」
12歳の娘。生後10ヵ月ぐらいで左耳が中耳炎になって以来、何回か繰り返し、鼓膜も何回か切開しました。6歳のとき、医師から滲出(しんしゅつ)性中耳炎といわれ、その後長い間、医者に通いました。現在、耳の聞こえはそれほど悪くありません。今年の初め、鼓膜がへんこんでいるといわれ、チューブを入れる手術を勧められましたが、どうすればいいでしょう。
(埼玉・M)
答える人 菅家 元
問 滲出性中耳炎とはどんな病気でしょうか。
答 鼓膜の内側の中耳腔(くう)に液がたまるものです。あまり痛みや耳なり、めまいなどはないのですが、ちょうど太鼓の中に水がたまったようなもので、難聴になることが多いのです。耳にふたをしたような感じがすると訴える子もいます。3歳から6歳ぐらいの子どもに多く、4年生ぐらいになるとぐっと減ってきます。もう1つのピークは老人にもあります。
問 この方のように中耳炎を繰り返すのは?
答 急性中耳炎を単純に繰り返したというよりも、急性中耳炎のあとに液がたまり滲出性中耳炎の状態になり、急性と滲出性の中耳炎の間をいったりきたりして繰り返したのではないでしょうか。急性中耳炎は、組織に炎症が起こるので痛みなどがあります。
問 液はなぜたまるのですか。
答 中耳腔は耳管という管で鼻の奥の上咽頭(いんとう)とつながっていて、つばを飲み込んだりるすと耳管が開きます。このとき中耳腔の空気が入れ替わり、中耳腔の圧力が一定に保たれるのですが、この機能が低下すると液がたまりやすくなるのです。液は粘膜からしみ出してきた血液の水分だと考えられています。サラサラした水のような液のこともあるし、ねとねと糸をひくような液のこともあります。子どもの場合は、ねとねと型のほうが多いですね。
問 耳管の機能が低下する原因は?
答 たとえば、耳管の出口近くのアデノイド増殖症のために液の排せつが悪くなるとか、アレルギー性の鼻炎で口で息をするため炎症を起こしやすかったり、蓄のう症で汚いたんがのどにたまるとか。つまり、のどや鼻の奥になんらかの異常があって、上咽頭の炎症が続くと、耳管の働きを悪くするのです。中耳炎の多い季節は2月、3月で、風邪の季節です。大人の場合、上咽頭の腫瘍(しゅよう)が、滲出性中耳炎、難聴というかたちで現れることもあります。
問 簡単に診断がつきますか。
答 鼓膜を見ると、大体3/5ぐらいは診断がつきます。間違いなく診断するにはティンパノグラムという機械で、音波を鼓膜にあててはねかえってくる音を測定し、中耳腔の状態を調べます。患者は増加する傾向にあるのですが、こうした発見技術の進歩や、患者の知識、受診の機会が増えたことも影響していると思います。
問 治療はどうなりますか。
答 かなり自然に治ることが多いので、急いでいろいろ試みなくてもいいのです。小学校の新入学児童を診ると、滲出性中耳炎は5%ほどに見られるのですが、特に治療しなくても1年ぐらいのあいだに大体9割近くは治ってしまう。1年たっても治らない人をさらにもう1年間、経過を見ていると、そのうちの6割ぐらいは治ります。まずは様子をみて、その間にのどや鼻の病気を取り除くことが大事です。
問 質問の「チューブ」とは?
答 鼓膜に換気のためのチューブを入れる治療のことです。鼓膜の中にたまった水をチューブから出そうというのではなく、きゅうすのふたに開いている穴と同じ役目をするもので、今まで耳管のほうに流れなかった液が急に流れるようになるわけです。入れたその日から聞こええるようになります。しかし、滲出性中耳炎の治癒という点では、チューブを入れてもあまり効果はないのです。
問 チューブを入れる対象になるのは?
答 一般に半年前後、できれば1年ぐらい様子を見て、それで難聴が改善されなければ、チューブを入れるのがふつうです。あと1年なり、2、3年たつと中耳炎は自然に治ってくるわけですが、少しでも聴力を取り戻した状態で治るのを待つのがずっといいだろうという考え方です。
問 この方の場合は?
答 手紙を見る限りでは聞こえも悪くないようですから、チューブによる治療の対象ではないと思えます。鼓膜がへこんでいるというのは、耳管の機能が悪くて中耳腔の圧力が下がっているということでしょうが、液がたまって難聴があるかどうかがチューブを入れるかどうかの判断基準です。